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Design

力と知性をデザインする。

ツアートーナメントで活躍するトッププロからアマチュアまで、多くのゴルファーに愛用されているヤマハのゴルフクラブ。
楽器をつくるヤマハならではの物づくりやデザインは、高い評価を得ている。
社内にデザイン部門を持つ数少ないメーカーであるヤマハ。そのヤマハ・デザイン研究所でゴルフ製品を担当する二人のデザイナーが、その思いを語った。

01ヤマハのデザイナーとして

齋藤: 実は音楽は好きではなかったんです。

——デザイナー、齋藤大輔がインタビューの最初に口にしたのは意外なひと言だった。

齋藤: 転機になったのは、中学生の時にラジオから流れてきたある曲です。大きな衝撃を受け、それ以来、高校、大学と音楽に傾倒しました。一曲の音楽が人生を変える——そういうことが本当にあるんですね。就職の時はその音楽に「恩返し」をするため、ちょうどデザインの勉強をしていたので、ヤマハで楽器のデザイナーになろうと思いました。

——齋藤の入社は1994年。当時のデザイン研究所では、すでに中堅デザイナーとして田中伸政が活躍していた。

田中: ぼくが就職を考えた1970年代の後半は、アメリカ西海岸のライフスタイルが雑誌などを通して日本に流れ込んできた時代です。ヤマハのスポーツ用品はどれも格好よかったし、街で目にする広告は斬新で、ぜひこの会社で働きたいと思った。入社後はひと通り楽器のデザインを手がけ、テニスラケットのデザインなどを経て、1982年にヤマハがゴルフクラブの製作を始めることになったときにスタートから加わりました。

——齋藤も、2007年からゴルフクラブを担当することになる。しかし「音楽への恩返し」を心に入社した齋藤にとって、ゴルフクラブのデザインという仕事に馴染むのは簡単ではなかった。もともときちんと腑に落ちたことでなければ手をつけない、齋藤はそういう性格の男だ。頭を抱えた。

02楽器とゴルフクラブの共通点

齋藤: ゴルフはやったこともなかったし、楽器の世界からは遠く感じました。でも、ゴルフというスポーツを知っていくと、ただ力が強い、足腰が丈夫といった肉体の強さだけでは勝者にはなれないものなんですね。厳しい自然条件の下で、自分を冷静にコントロールしながら目標に向かって進んでいく。精神の強さや知力が伴わなければ結果は出せません。実はぼくは、バイクトライアルという競技をずっと続けています。この競技はタイムを競うのではなく、岩場が続くような難しいコースを、いかに足を地面につけることなく走り抜けるかを競います。筋力やテクニックだけでなく、判断力や知性、冷静さ、勇気……いろいろなものが試される。ゴルフも同じなんです。ゴルファーにとってのゴルフクラブは、バイクトライルにとってのバイクやミュージシャンにとっての楽器と同じなんだということに気付きました。

——ひとたびコースに出れば、握りしめるクラブだけが孤独に戦う自分のパートナーである。あたかも楽器ひとつ携えてオーディエンスの前に立ち、自己を表現するミュージシャンのように……そう感じたとき、齋藤はゴルフクラブのデザインをしたいと思ったという。先輩デザイナーの田中も、「確かにゴルフクラブに求められるのは機能だけではない」と口を揃える。

田中: 単に「よく飛ぶクラブ」であるだけでは、ヤマハがデザインする意味がない。それを手にしたときに「よし、これなら大丈夫だ」と安心でき、うまくいきそうな予感のあるものでなければならない。力と知性、その両方をバランスよく表現し、プレイヤーのメンタルまでサポートするものでなければならないと思います。そういうデザインは、ヤマハだからできることなんじゃないか。ピアニストの繊細さやドラマーの躍動感を知っているわれわれだけに分かるプレイヤーのフィーリング、それをデザインに落とし込むことが必要だと思うんです。

03ゴルファーを鼓舞するデザイン

——では、具体的にどうデザインするのか。完成したばかりのモデルを前に、二人はそれぞれの思いを語る。ウッドのヘッドデザインは田中の担当だ。

田中: 一ラウンドに打てるドライバーショットの数は限られています。ここでミスをしたら後に引きずる。「さあやるぞ」という意気込みと「うまく飛ぶか」という不安の中でプレイヤーはバッグからドライバーを抜き取るんです。その時に目にするクラブのソールの印象は大切です。例えばあるモデルでは、大きく広がるフェアウェイをイメージしてハの字に広がるデザインを採用しました。もちろん打音も重要なポイントです。いい音でヒットすることでプレイヤーの気持ちは高まる。その官能的なことまで含めてデザインなんだと思います。実物大の模型で3Dデータを解析しながら音の響きを分析、企画・設計、そしてわれわれデザイナーが一体となって常に最適な形を模索しています。

——一方、齋藤はアイアンを担当した。アイアンは、デザインが機能に直結する。デザインを変えれば、直ちにヘッドの重さや重心の位置が変わる。しかも、ソール幅やヘッドの大きさ、ロフト角が番手ごとに異なる中で、統一感のあるデザインが求められる。

齋藤: デザインについては、賞金王のタイトルも取っている日本のトッププロ、藤田寛之プロ、谷口徹プロからのアドバイスをいただいていますが、特に藤田プロの指摘は非常に細かい。アドレスして上から見たときの見え方、その佇まいがどうか、というところまで指摘される。例えば低重心にするためにソールを広くしたことが、上から見たときの形の違和感や気持ちの引っかかりになってしまったら、スイングに集中することができないんだと言われました。デザインしながら、同時にデザインが目立たないこと、安心感や高揚感はもちろん、その一打に集中できる静かな心を運んでくることも、デザインの仕事なんです。

——最高の性能を確保しながら「安心感」や「打音の心地よさ」、「佇まいの美しさ」までトータルにつくりあげる。それがゴルフクラブデザインの真髄なのだ。トッププロにしか分からない微細なフィーリングに答えようとする努力は、デザインとは何かというところまでデザイナーを連れて行く。

齋藤: 機能だけでなく、使い手の感性まで意識しながら、力と知性を高い次元で融合すること、それが求められているのだと思います。成功すれば、デザインされていることすら意識されないものになるのではないでしょうか。それこそヤマハのデザイン研究所のデザイナーであるわれわれの使命だと思っています。

Profile

photo: 田中 伸政

田中 伸政

1953年生まれ。1977年ヤマハ株式会社入社。スポーツ用品やさまざまな楽器、さらにロゴデザインなどを担当。電子ピアノ「クラビノーバ」の1号機のデザインも手がけた。1982年からゴルフクラブやゴルフ関連製品のデザインを担当。

photo: 齋藤 大輔

齋藤 大輔

1972年生まれ。1994年ヤマハ株式会社入社。楽器や音響機器のデザインを経て2007年からゴルフクラブやゴルフ関連製品のデザインを担当。プライベートで楽しむバイクトライアルでは29歳の時にアジアパシフィックチャンピオンになった。